わざと揺らしてんのかな?
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桜花さんのお店ーー花鳥風月は、駅の南口から徒歩五分くらいの場所にあった。
あまり夜は若い娘がうろつかないような、路地裏にあるビルの三階。
エレベーターを降りて、目の前がお店だった。
江戸花街の遊郭をイメージしてるらしい。
紅色の格子の向こうでは、露出度が高い煌びやかな衣装を身に纏ったお姉さんが接客してる。
三日月型の大きなカウンターと、半個室みたいなお座敷席がちらほら設置されてて、広くはないけどお客さんは結構入ってるように見えた。
「ただーいまー。一名様ご案内よー」
そう言って、桜花さんはあたしの背中を押して店内に連れ込んだ。
「桜花さん、おかえりなさい!」
「桜花ちゃーん、待ってたよー」
「あー、今日も桜花さんは綺麗だわー」
「やあだもお、ほんとのこと言わないでっ」
意外だったのは、女のお客さんもいることだった。
そして、どのお客さんも桜花さんと仲がいいらしく、なんかアットホームで和気藹々としてる。
もっと、お色気満載のとこかと思ってただけに、ちょっと拍子抜けした。
「桜花さん、その子初めてのお客さんですよね?」
と、カウンターにいた花魁バーテンが一人近寄ってきた。
うっわ、細いのに胸でっか。
えふ?えふかっぷくらいかしら?
「お客さんじゃないのよお、わたしの義理のお姉さん」
……義理の、お姉さん!?
店内が一気にざわめき出した。
お客さんと花魁バーテンさんの視線が痛い。
「うっそお、桜花さんお兄さんいたのー!?」
「まあねえ。ーーちょっと奥の部屋借りるわよ」
「はあい。ーーあ、なんか飲みます?」
「じゃあ、わたしストレートウィスキー。なるみんは?」
「えっ、えっと……カシスオレンジ、あります?」
「ありますよ!じゃあ、あとでお運びしますね!」
花魁バーテンさんは元気よく小走りでカウンターに戻って行く。
その度、ぼよんぼよんと揺れてた。
あれ、わざと?
わざと揺らしてんのかな?
あたしは桜花さんに連れられて、店の奥の部屋に向かった。