あたしってばなんて優しい幼馴染だろう
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「今日以外で、なにか不審な人を見かけたりしましたか」
「いえ……あ、昨日、お向かいの家の奥さんが、不審な男にあたしのことについて聞かれたって言ってました。その人、探偵だって言ってたらしいです。もしかしたら、さっきの人のことかも」
あたしがそう言うと、巧さんはなにか納得したように頷いた。
「朝倉家の雇われ探偵か」
あたしは巧さんの呟きを聞き逃さなかった。
「朝倉家の雇われ探偵って、なんでしょう?」
「昔はよくあったそうです。大手企業が探偵を雇って採用を検討している人間の身辺調査を依頼してたように、身分の高い家は探偵を雇って嫁候補の身辺調査をさせてたんですよ。美月から聞きましたが、月川さんは最近、宗辰さんとお付き合いされたそうですね。恐らく、あの男は朝倉家に月川さんの身辺調査を依頼されたんだと思います」
あたしはただ唖然としながら話を聞いてた。
なんだか現実味を帯びない話だな。
「今日は帰って頂いて結構です」
「あ、あの、このこと、朝倉先生には言わないでおいてもらえませんか」
巧さんは、眉を潜めた。
「朝倉先生、このこと知ってもきっといい思いしないだろうし、あたしも別になにかされたわけじゃないんで」
先生、思い詰めるかもしれないもんな。
いらない心配はさせないほうがいい。
巧さんは、少し迷いつつも頷いた。
「わかりました」
「ありがとうございます。ーーあのお、因みにこれから予定とかってあります?」
「報告書を書くくらいですが」
「あたし、これから花村と朝倉先生と食事に行くんですけど、よかったら巧さんもどうですか?」
店の予約はたぶん三人でしてるだろうけど、きっと花村に巧さんがくること伝えたら、即刻人数変更するか、他の店探してくれるに違いない。
でも、巧さんはあんまり乗り気じゃなさそう。
「こちらとしては寄り道せず真っ直ぐ帰って頂きたいんですが」
「大丈夫ですよ、朝倉先生もいるし。でも、巧さんがいてくれたらもっと安全だと思います。花村も朝倉先生も、きっと喜ぶと思うなー」
……どうだ?
「……わかりました。報告書を書いてから伺います。場所が決まったら連絡してください」
そう言って、渋々といった感じでメールアドレスをメモに書いてあたしに渡す。
よっしゃ、巧さんのメアドゲット。
「幹事は花村なんで、たぶん花村から連絡あると思います。それじゃ、また後で!」
ふふふ、あたしってばなんて優しい幼馴染だろう。
あたしは笑顔で待ち合わせ場所に向かった。