叱られた
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巧さんは駅から離れた方へ歩き出す。
「た、巧さんっ?」
「このまま、歩いてください」
巧さんは小声であたしにこう言う。
「さっきお見かけしたとき、男につけられてました。今もまだ、つけられてます」
あ、やっぱり、つけられてたんだ。
でも、なんで?
「なんであたしなんか……」
「宗辰さんのそばにいるからです」
「え?」
と、巧さんは角の細い道に入り込んだかと思えば突然止まって、あたしを庇うように背後に移動させた。
そして、口元で人差し指を立てて見せる。
足音が近づいてきた。
一人の男がこちらに曲がろうとした瞬間、巧さんはその男の腕を掴んでねじり伏せる。
「警察だ」
「っいででで!待ってください!怪しい者じゃありません!」
ねじ伏せられた男の顔に見覚えはなかった。
「お前がこの女性をつけ回してたのは見てんだよ。ストーカー容疑で逮捕する」
「違うんです!話を聞いてください!」
「月川さん、交番までご同行願えますか」
「あ、はい」
うわー、警官が手錠を犯人にかけるとこ初めて見た。
もう、小学生並みの感想しか出ない。
すげー。
あたしは巧さんと犯人さんの後ろについて、交番へと向かった。
交番には、制服姿のお巡りさんが一人待機してた。
巧さんは犯人さんを他のお巡りさんに託す。
そのまま犯人さんは、そのお巡りさんに奥の部屋へ連れて行かれてしまった。
あたしは近くの椅子に座らされると、巧さんにいろいろと質問された。
「あの男に見覚えはありますか」
「いいえ、初めて見た顔です」
「つけられてたという自覚はありましたか」
「今日の朝からなんか視線は感じるなあって思ってました。でも、勘違いだと思って、普通に通勤しました。帰りになってもやっぱり視線を感じてたので、どうしようかとあのベンチで考えてました」
「そういうときは交番に来てください」
「……はい」
叱られた。
すみません。