忍び寄る影
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次の日。
あたしはいつもどおり家を出た。
バス停まで三分くらい歩いて、二十分くらいバスに乗ってれば平塚駅に着く。
背後からの視線を感じたのは、平塚駅に着き、駅構内へと向かう途中だった。
自意識過剰だと思って、大学に着くまでは全然気にしてなかった。
でも、大学に着いてからは全く感じなくなったから、やっぱり大学まで後をつけられてたのかもしれない。
そう思うと気味が悪かった。
ーー昨日の探偵とかいう不審な男の話を聞いたから、過敏になってるだけかもしれない。
だって、こんなデブスつけまわす必要どこにもないし。
つけまわしたところで、ただのフリーターだし。
あたしは存在してるのかしてないのかわからない探偵に、お仕事ご苦労さんですと心の中で思いながら紀要の受入れを始めた。
ーー特に誰とも会わず、今日も一日が過ぎたため、時間を一気に終業時間まで進める。
終業時間になる頃には、探偵の存在はまた遥か彼方に消えてた。
戸締りをして、鍵を返して、大学の門を出る。
そして、再び感じる背後からの視線。
それでようやく探偵の存在が頭に戻ってきた。
後ろを振り返ってみるも、それらしい人はいない。
うーん、これから人に会うのになあ。
つけられながら楽しく食事なんかできない。
でも、花村はもうお店の予約しちゃってるだろうし。
どうしよっかなあ。
あたしは駅から少し離れたベンチに座って考える。
待ち合わせ場所は、駅改札の前のベンチだった。
このまま待ち合わせ場所に行ったら、これから会う花村や宗旦狐にまで迷惑が及ぶかもしれないと思うと、なかなか動き出せない。
待ち合わせ時間にはまだ時間はある。
どうするべきか。
視線を落として考える。
と、男物の革靴が目に飛び込んできた。
「お待たせしました」
その声に顔を上げる。
私服姿の巧さんだった。
「え?巧さん?」
あたし、巧さんと待ち合わせなんかしてないぞ?
混乱してると、巧さんは問答無用とあたしの腕を取る。
「行きましょうか」
そう言って、あたしの手首持って歩き出した。
ちょ、えっ、ええ??




