緊急会合開催決定
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妹にノックの定義を教え込んだ後、コート放り投げて追い返した。
抱き枕を肩に担いで布団に戻ると、端末が鳴る。
花村からの着信だった。
「もしもし」
『あ、なるみ?今大丈夫?』
「大丈夫、暇だった」
ついさっきまで抱き枕相手に悶えてたとは、口が裂けても言えねえ。
『あの先生とどうなったか気になってさあ。全然連絡寄越さないから、こっちから聞こうと思って。吉田からは好きじゃないって言われたらしいって聞いてたんだけど』
あー、吉田と個人的にやりとりしてたんか。
「とりあえず、結論を申し上げると……お付き合いすることになった」
『はあ!?』
花村の声が耳を劈く。
思わず端末を遠ざけた。
『うちが目を離した隙に、なにがどうなってそうなった!?』
「いや、これには、深い事情がございまして」
『昨日、お前どこに泊まった?』
ひえ、花村の声のトーンが低い。
「せ、先生の家には泊まったけど、お互い寝落ちしてなんにもなかったから」
あたし、妹に聞かれないようになるべく小声で応対する。
『付き合ってる男女が、夜に同じ屋根の下にいる時点でなにもないわけないだろうが!あんっの変態講師、思った以上に手練れだった……』
えええ、なんで信じてくんないのお。
「いや、ほんっとになんっにもなかった。まじで。素直に言うと寝起きにちゅーされたくらいで……」
『寝起きにちゅーだあ!?ーーもうだめ、うち二度となるみのアリバイ工作の手伝いしないから。心臓に悪い。一人で寝ながら先生となるみのこと考えるうちの身になってみろ』
……それは、素直に申し訳ないことした。
心配させっぱなしで連絡寄越さないと思ったら、寝起きにちゅーとか言い出すんだもんな。
あたしだったら殴り殺すわ。
「ほんと、すみませんでした」
『これはあれだわ、緊急会合。明日、仕事で大学の最寄り駅の方寄るんだけど、帰り会えない?』
「はい、ぜひ行かせて頂きます」
『よろしい。じゃあ、十八時に駅で。店はうちが決めとく』
「お願いします」
もう、あたしは黙ってついていきます、はい。
『それじゃ、おやすみー』
そう言って、花村は電話を切った。
緊急会議か……根掘り葉掘り聞かれんのかな。
そんなこと思ってると、今度は宗旦狐から連絡がきた。
朝倉宗辰:今日はお疲れさまでした。俺は左手を洗わずにもう寝ることにします。
月川なるみ:いや、汚いから洗ってください。
月川なるみ:明日、花村と会うことになりました。きっと根掘り葉掘り聞かれると思うんですが、さなえさんのことは伏せた方がいいですよね?
朝倉宗辰:俺も仕事の後、合流していいですか?
えっ。
来るの?まじで?
とりあえず、花村に連絡入れて宗旦狐が来たがってる旨を伝える。
そしたら、
花村七海:おう、その度胸は認めてやる。ドタキャンは許さんぞと伝えてくれ。
とか返事がきた。
あたしはその本文をそのまま宗旦狐に送った。
朝倉宗辰:なんで喧嘩腰なんですか。
月川なるみ:さあ?
理由はわかってんだけどもね。
眠いし、説明するのが面倒になった。
あたしは、宗旦狐に十八時に駅でと告げて眠りについた。