いなくなるやもしれません
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終業後。
あたしは前みたいに、宗旦狐の車に乗せてもらうことになった。
「すみません、送ってもらって」
「いえ、授業がある木曜しか送れなくなったのが残念なくらいです」
塾講師のアルバイトを短期で始めたから、宗旦狐も頻繁には大学に来れなくなったらしい。
美月ちゃんも来なくなるだろうし、やっぱり寂しくなるなあ。
「来年には常勤になるので、今より長く一緒にいられますね」
「あたしがいなくなるやもしれません」
あたしがそう言うと、宗旦狐は眉を潜めた。
「辞めるんですか」
「親に就活するって宣言しちゃったんです。あ、因みにもう先生が彼氏じゃなかったこと、バレてます。SNSの動画を妹が親に見せたらしくて。でも、約束どおり先生の名前は言ってません。ーーただ、母は結婚しないで安定した収入がないままでいるのが心配らしくて、結婚か就職をすればそれでいいみたいなんです。……先生のこと、母に言えばきっとこのまま残れると思うんですけど」
それには、やっぱり宗旦狐の名前は必須だ。
そろそろうちの家族に名前をひた隠しにしてる理由を、教えてもらいたいんだけど。
「そう、ですね。そのうち、挨拶に行きます。もう少し、待ってもらえませんか」
待ったところで、なにが起きるっていうんだろう。
「そんなに隠すほどのことがあるんですか。先生、さなえさんのことといい一人で抱え込みすぎるから心配です」
「それはなるみさんに言われたくないですけど、心配されるのは嬉しいです」
まったく、すぐそうやってはぐらかす。
まあ、そのうち教えてくれるって言ってるから別にいいか。
「ちゃんと、頼ってくださいよ」
「ありがとうございます」
宗旦狐は照れたように笑った。