聞かせて頂こうか
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一刻も早く、帰らねばならない気がする。
今はまだ二十二時だし、電車は動いてる。
端末の充電が四十%と心許ないけど、なんとか今から飛び出せば、ホテルまでは保つはずだ。
やっぱり嫁入り前の娘が、男の家に泊まっていいはずない。
ーー……それにしても、このきつねうどんめっちゃ美味いな。
宗旦狐はお風呂に入ってる。
抜け出すなら今だ。
本能はそう叫んだけど、あたしの身体は動くことを拒否した。
なんのためにあの寒い中、三時間以上も待ったんだ。
ちゃんと、決着つけようと思ったからだろうが。
逃げ出さないのは、決してきつねうどんが美味しいからとか、寒いお外に出るのが嫌だとかではない。
ーーでも、お腹いっぱいで眠くなってきた。
「口に合いましたか」
と、宗旦狐が肩にタオルを掛けて出てきた。
「美味しかったです。料理得意なんですね」
「一人暮らしが長いですから。ある程度なら」
そうか、大学生からだもんな。
そりゃ料理もできるようになるか。
「ごちそうさまでした」
「食器は置いといてください。後で片付けますから」
と、宗旦狐が食器を持とうとしたあたしを制止する。
あたしは、大人しく手を引っ込めた。
「聞いてもらいたいことがあるんです。隣、いいですか」
いいもなにも、このソファ宗旦狐のなんだが。
そう思いつつ、宗旦狐が狭くならないよう更に横にずれた。
宗旦狐は、神妙な面持ちで隣に座る。
ーーさて、聞かせて頂こうか。
あたしは、宗旦狐の言葉を待った。