い、一応、嫁入り前の娘、なんだが、なあ?
293
今、なんつった?
お風呂?
え?もしかしてだけど、あたしを自分の家に泊まらせる気?
嘘でしょ、頭大丈夫?
「もう遅いですから、今日は泊まって行ってください。平塚まで送るより、その方が楽です」
宗旦狐はマグカップに粉末のお茶とポットのお湯を注いで、ソファの前の机に置いた。
「い、いやいやいやいや。自分の足で帰ります。そんな図々しいことしません。ご飯も一食抜いたくらいで死にませんから。それこそ、水道代と食費の無駄です」
なんなんだ、この人。
なんでこんなナチュラルに泊まらせようとしてんの?
誰にでもそうなのか?
「……じゃあ、帰る帰らないは、話の後で決めてください。とにかく、俺のせいであんな寒い中待たせたんですから、風邪は引かせたくないんです。どうぞ、これ飲んで待っててください」
そう言って、宗旦狐はあたしを片付けたソファに座らせると、お風呂を洗いに行ってしまう。
……まじか。
男の人の家で、お風呂に入る?
冷静に考えると、自然と体が強張った。
宗旦狐に限ってありえないだろうけど、なんだろうこの危機感。
きっと、あれだ。
雌としての本能みたいな。
い、一応、嫁入り前の娘、なんだが、なあ?
ガクブルしつつ、お茶を気休めに飲んでると、宗旦狐が戻ってきた。
そんなあたしを見て、
「寒いですか?」
とか聞いてきやがる。
いや、そうじゃない。
そうじゃないんだけど、そういうことにしておこうか。
宗旦狐は暖房の電源を入れた。
「着替え、用意しますね」
「あ、いえ、持ってるんで」
と、答えると、宗旦狐は明からさまに不審がった。
「ホテルに泊まるつもりだったんです!……前に、先生から好きじゃないって言われたとき、あのあと佐々木先生の研究室で大泣きしちゃって……また、ああなったら、家になんて帰れないから……」
これから嫌いだって言われようとしてるのに、我ながら情けねえ。
恥ずかしくて顔を上げられずにいると、ゴンっという音が聞こえてきた。
その音に顔を上げると、宗旦狐が部屋の壁に頭打ちつけてる。
「どうされました!?」
「いえ……ちょっと、ほっといてください」
家に連れてきといてほっといてくださいはないでしょうよ!?
ねえ!?