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嘘つけえ
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「もう少し心開かないと、就職は難しいね」
「……先生たちには開いてるつもりなんですけどねー」
「開く相手が違う。企業の人事に開きなさい」
「あの人たちに開けたら苦労しないですよ」
あたし、照れ隠しに頬杖ついてむくれる。
でも本当に、人事の人たちって値踏みするような目で見てくるから好きじゃない。
それが仕事なんだろうけど、あの目を見た瞬間あたしの自尊心ガードが発動してしまう。
若い男ならなおさら。
「何年後に就職できそうです?」
「そうだねえ、三年後くらいかな」
「そんなに!?」
「手相は変わるからね。……おっ」
途端に、柳原先生にやりと笑う。
「月川さん、働かなくていいかも」
「なんでなんで?」
「ここ、玉の輿の線があるだろ。その人とも近々会えそうだ」
ふむ、どうやら小指の下の長い横線が玉の輿線らしい。
……嘘つけえ。
「信じるか信じないかは、月川さん次第」
柳原先生は、あたしの心の声を聞き取ったかのようにこう言った。
あたしには、柳原先生が妖怪の覚のように見えた。