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指切り

289


目の前には縁側があった。

縁側の奥の座敷では、中学生くらいの男の子が机に向かって勉強していた。


縁側に近づくと、その男の子は直ぐにあたしに気づいた。


そして、目を丸くしてあたしにこう言った。


「どこから来たの?」


「つまんないからね、遊びに来たの。お兄ちゃん、なるみと遊ぼ」


男の子は、困ったように笑ってた。


「俺は今日、誰にも会っちゃいけないんだ。お父さんとお母さんにそう言われててね」


「じゃあ、わからないように遊ぼう。なるみね、折り紙持ってるよ」


幼かったあたしは靴を脱ぎ、縁側をよじ登って部屋に進入した。


「なるみちゃんも、お父さんとお母さんに怒られるよ」


「へーき。パパとママは、いっつもなるみにおこってるから」


「怖くないの?」


「こわいけど、へーき。ーーお兄ちゃん、なんか作って。そしたら、すぐもどるから」


男の子は心底面倒そうな顔してたけど、手先は凄く器用だった。

ぴょんぴょんカエルとか鶴を、次々に折ってくれた。


「さあ、早くこれ持って帰りな。俺が怒られる」


「どうしてお兄ちゃんがおこられるの?なるみが入ったのに」


「それでも、怒られるんだ」


男の子は顔を歪めた。

その表情からは、男の子が辛い思いをしてると、幼いあたしでも読み取れた。


「お兄ちゃん、楽しくなさそう」


男の子は、はっとした顔をした。


「おおばあちゃまが、言ってたよ。人生は楽しまないとそん、なんだって。おおばあちゃま、しんじゃったけど、しんじゃう前に、楽しかったって言ってた。なるみ、よくわからないけど、それってすごいことなんだって」


「俺は……」


「おとなになったらね、わかるんだって。お兄ちゃん、おとなになったら、またなるみと会って遊んでくれる?」


親は子どもにとって絶対的な存在であり、決して逆らうことはできない。

だから、男の子もあたしも、いつか大人になれば、親から自由になれると思った。

そのときに会えば、きっと誰にも怒られたりしない。

そう、思った。


男の子も、そう思ったのかもしれない。


「うん……大人に、なったら」


と、初めて明るく笑った。


「ゆびきり!」


あたしは、自分の小指を男の子の小指に絡めた。

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