なんて浅ましいんだろう
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仏と少し話したため、遅刻するかと焦ったけど、大学の最寄り駅からあの公園の駅までは、三駅しか離れてないから、なんとか待ち合わせの十八時には遅刻しないで着けそうだった。
空はとっくに真っ暗で、街灯は真っ白な光で公園を照らす。
あたしは、公園に着くとすぐにあのベンチの方を確認した。
でも、やっぱり誰もいなかった。
ベンチに座って、宗旦狐を待つ。
端末を開いても、なんの連絡も入ってなかった。
十八時まで、あと五分。
あたしは何度もちらちらと端末で時刻を確認した。
こういうときに限って、時間が経つのって遅い。
あと三分。
あと二分。
あと一分。
心の中でそんなカウントダウンをする。
でも、約束の時間になっても、宗旦狐は来なかった。
あと、五分待とう。
心の中で自分にそう言い聞かせて、ひたすら待った。
十一月も下旬の夜。
コートを着てるとはいえ、さすがに凄まじく寒い。
ちょっと散歩で歩き回ろうかとも思ったけど、誰もいないベンチを見た宗旦狐がそのまま帰ったらと思うと、一歩も動けなかった。
来るはずなんかないのに。
来たところで、傷つくだけなのに。
でも、待つことをやめられなかった。
ふと、小学生くらいのときに読んだ少女漫画の場面を思い出す。
主人公の女の子に、一方的にデートの誘いをして、雨の中ひたすら傘も差さずに待ち続ける男。
幼いあたしには、この男が滑稽に見えてた。
数年後、その男と同じような状況になるともつゆ知らず。
おかしいなあ、漫画では男の方が女を待ってたはずなのに。
誰もいない公園で、真っ暗な空の下、凍えながら男を待ってるのは、あたしの方だった。
昔のあたしが見たら、やっぱり滑稽に思うのかな。
いや、自分でも馬鹿だなって思ってんだよ?
あたしと一緒にいたことが時間の無駄だったって言った男が、見合いすっぽかしてあたしなんかに会いに来るはずないって。
ーーでもさ、心のどっかで、もしかしたらって、思わずにはいられないんだよね。
来てくれたところで、なにも変わらないのに。
もしかしたらって。
ほんと、なんて浅ましいんだろう。
なんて身の程知らずなんだろう。
あたしは一人、バッグを抱えて自嘲した。