それは一体いつなんでしょうかねえ!?
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次の日。
あたしは、一泊分の洋服が詰め込まれたバッグを持って出勤した。
宗旦狐はいつもどおり既読スルーだし、資料室は誰も来ないし、仕事もほとんどない。
まるで、宗旦狐に会う前に戻ったみたいだった。
……いや、戻ったんだ。
ただ、それだけのことなのに、なぜか漠然とした寂しさを覚えていた。
この資料室に、あとどれだけ来られるだろう。
ディスクに頬杖つきながら、そんなことを考える昼下がり。
と、端末に連絡が入った。
宗旦狐からだろうか。
そう思って慌てて端末を見るも、相手は吉田だった。
吉田悠介:先生の件、どうなった?
心配してくれてたのかな。
なにげに、こいつもなかなかいい奴なんだよな。
月川なるみ:もう、好きじゃないって言われたよ。
吉田悠介:お前は好きだったんじゃないの?
月川なるみ:さあ、わかんない。
吉田悠介:それでいいのか。
月川なるみ:それが先生の本心なら、仕方ないじゃん。
送ってから、ふと思い立って吉田に聞いてみた。
月川なるみ:聞きたいんだけどさ、吉田は彼女のこと好きになれて幸せ?
あたしは人を好きになったことがないから、好きになることがどんなことなのか、周りの人の反応とかを見て想像することしかできない。
参考までに、彼女を好きになって、プロポーズまでして婚約した吉田の気持ちが知りたかった。
父は、好きになることはエゴだって言った。
その人と一緒にいられるなら、他人や、自分さえ傷つくことを厭わない。
それが、好きになることなんだって。
でも、それって果たして幸せなのか?
そんな、他人を傷つけたり、自分自身が傷ついてまでその人を好きになる利点が、どこにあるんだろう?
あたしには、それがわからなかった。
吉田悠介:幸せだよ。
吉田は、即座にそう送ってきた。
吉田悠介:これから、苦労もたくさんあるかもしんないけど、それとかも含めて、全部が幸せなんだと思う。
全部が幸せ、か。
つまり、その人がいればどんな苦労も幸せのうちになると。
やっぱり、あたしにはわからんな。
月川なるみ:よくわからないけど、吉田が幸せならよかったよ。
吉田悠介:まあ、いいことばっかじゃないけどな。でも、それが人を好きになるってことだ。お前にもいつかわかるだろうよ。
出た。
いつかわかるだろう発言。
それは一体いつなんでしょうかねえ!?
あたし、むくれながら返信する。
月川なるみ:あんがとよ。