来ねえだろうな
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「そうこなくっちゃ。健闘を祈る!わたしにできることはなんもないから、どうなったかだけ後日連絡ちょーだいね!ーーそれじゃ、わたしこれからお店ちょっと覗かなきゃだから」
そう言って、桜花さんは「ばいばーい」と手を振って帰ってった。
嵐みたいな人だったわ。
桜花さんが出て行ったあと、美月ちゃんが眉を潜めて口を開く。
「明日、なるみさん出勤日ですよね?」
「え?あ、そっか」
忘れてた。
仕事の後に行くことになるから、ちょっと遅くなりそう。
というか、来るかわかんないし、何時に帰れるかもわかんないんだよね。
……花村の家に泊まることにして、どっかまたホテルでも借りようかなあ。
「夜に一人で待つのって、危なくないですか?」
「そうだね。でも、金目の物はあんまり身につけないようにするし、財布の中、クレジットカードだけにしておくから」
「そうじゃなくって、なるみさん女の子なんですよ!?」
え、やだ、美月ちゃん、あたしのこと女の子って認識してくれてたの?
……美月ちゃん優しい。好き。
「念のため、これ持っててください」
と、美月ちゃんは鞄から小型のスタンガン取り出す。
あ、それ、いつの日か巧さんから渡されたやつだ。
「お兄ちゃんなら、きっと来ると思います。頑張ってください」
美月ちゃんは、あたしにスタンガンを握らせて、力強く手を握った。
でも、あたしは明日、宗旦狐が来ても来なくても、もう絡むつもりはない。
おしまいにするために会いに行く。
それだけだった。
帰宅してからは、夕食とお弁当を作ってから部屋にこもり、宗旦狐に送るメールの文章を考えた。
月川なるみ:こんばんは。突然で申し訳ありませんが、明日の十八時にあの公園のベンチで待ってます。先生をお呼び出しするのは、これが最初で最後です。二度と個人的にメールも連絡もしません。一言だけ、先生に直接言ってもらいたい言葉があるんです。お待ちしてます。
勢いで送信してから、もう一回読み直す。
……これ、来ねえだろうな。
そもそも、あたしとの時間が無駄だったって言ってた人が、こんなんで来るわけない。
よく考えりゃわかるだろうに、あたしもなんて馬鹿なんだろう。
ーーそう考えつつ、心なしか来てくれるような気もしてて、あたしはそんな自分自身に呆れた。