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わん
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「やめてくんない、じじい苛めるの。心臓止まるかと思ったんだけど」
「先生の授業もっと受けたいのは本当なんですけどねえ。あたし、今年から資料室スタッフとして大学で働いてるんです」
「ほほお。お前、就活失敗したな?」
「言わないでください」
形勢逆転。
柳原先生、そりゃあもう意地の悪いお顔で嗤う。
「将来が不安だから、先生に手相見てもらおうと思って会いにきたんです。……あ、これ、来月分の資料室の予定表」
「仕事は手相のついでか」
「はい!」
「素直でよろしい。左手出して」
柳原先生、わざわざ「お手」と言ってあたしに手を出すよう促す。
だから、「わん」と鳴いて左手を差し出した。
うわ、柳原先生の手と比べるとむちむちで恥ずかしい。
あたしのそんな気も知らず、柳原先生はまじまじと手を眺める。
「んー、月川さん、組織に属するの苦手だね。ガサツに見えて結構繊細。傷ついたり傷つけたりするのが怖くて集団行動避けてるでしょ」
……やばい、なんか恥ずかしすぎるぞ。
自分で自分の箱の中身お披露目してる気分。