侮るなかれ
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「どうぞ、お座りください」
このままじゃ、ほんとに美月ちゃんが圧死する。
あたし、慌てて桜花さんのために椅子を引いて、その向かい側に腰を下ろす。
「うふふ、ありがとう」
と、桜花さんは妖艶な笑みを浮かべて椅子に座った。
そして、ほっそい足を組んで机に肘ついてあたしのこのをじろじろと見始める。
「あなたのことも、佐々木先生から聞いてるわよ。月川なるみさん、よね?」
「は、はい」
「うーん、なんというかあ……思ってた以上に……その……横に大きいのね?」
…………あ?
「あんた、さっきからなんなの!?」
と、あたしの隣に座りながら、美月ちゃんが声を荒げる。
あたし、美月ちゃんのことを制止した。
そして、笑顔で言い返す。
「見た目のことではあなたに言われたくねえよ、このオカマ」
桜花さんは笑顔を少しだけ引きつらせた。
美月ちゃんは、きょとんとした顔であたしと桜花さんを交互に眺めてる。
そして、
「……オカマって……この人、男!?」
と、叫んだ。
「あーあ、ばれちゃった。見抜くの早いのねえ。つまんない」
「こちとら、約八年間女子校で女の子見とりますんで。侮らないで頂けますか」
われ、高校、大学と女子校で更に現在の職場も女子校ぞ?
なめんな?
桜花さんから名刺を渡されたとき。
手が、女の人のものよりも少しごつごつしてた。
でもって、大旦那がこの人を呼んだってことは、宗旦狐絡みのはず。
つまり、この人はーー
「朝倉先生の、弟(多分)さんですね?」
「(多分)ってなに?手術はしてないわよ」
と、桜花さんは不満そうに腕を組んで顔を逸らした。