あんっの、お喋り大旦那ぁ!
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ーー月曜日。
大旦那の知り合いが来る日。
でも、何時に来るんだろう?
大旦那には、まだ今日は会えてない。
門前で待ってた方がいいのか、それとも向こうから資料室に来てくれるのか。
よくわかんないから、資料室で待機するしかなかった。
マフラー編みながら時間が過ぎるのを待つ。
前に押し寄せてきた学生たちは、もう来なかった。
ま、そんなもんよね。
気がつけば、そろそろお昼だ。
資料室を閉室にしようと立ち上がる。
その瞬間、扉がノックされた。
あら、来たかな。
「はい」
と、返事して扉を開けに行く。
扉の向こうには、美月ちゃんが驚いた顔で立ってた。
「扉が勝手に開くからびっくりした」
「ああ、ごめん。お客さんだと思ったから」
あたしは美月ちゃんを中に招き入れた。
「美月はお客さんじゃないんですか」
と、美月ちゃんが頰を膨らませてこんなこと言う。
相変わらずこういうあざと可愛い仕草がよく似合う。
「いや、美月ちゃんはもう常連だからノックなしで入ってきてもいいくらい。ーー今日、佐々木先生の知り合いが来るらしいんだよね」
「パパの?」
「そう。誰かは来てからのお楽しみって言われて、来る時間もよくわかんないんだよね」
「そういえば、パパがこの間言ってたんですけど、お兄ちゃんにフラれてなるみさん、大泣きしたって本当ですか?」
……あんっの、お喋り大旦那ぁ!
「いや、あのね、語弊がある」
そもそも付き合ってないんだから、フラれるもなにもない。
あたしは変な汗流しながら、美月ちゃんにこの間のことを話した。