ちゃんと、ケリつけなきゃ
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あたしは母に手のひらを見せた。
「ストップ。あたしもさ、いろいろ考えたんだよね、結婚しなくてもいい方法」
そう、ずっと考えてた。
結婚しなくても、一人で生きていくようになる方法。
「あたし、もう一回就活するわ。んで、大学の仕事辞めて正社員になる」
「……は?」
「持ってる資格活かしたいから、司書になろうかと思って。でも公務員はちょっと厳しいから、まずは契約社員として地道に働くつもり。あたしの友だちにも、そういう子いたし」
母は開いた口が塞がらないというような顔してる。
「あんた……そこまで結婚したくないの」
「うん!したくない!」
あたし、男に頼るような生き方ってしたくない。
もちろん、結婚が絶対そうだとは限らないけど、でも少なくとも母が言ってるのはそういうことだ。
安定しない稼ぎでずっと独り身でいるのが心配だから、そういう話を持ってくるんでしょ。
だったら、安定する稼ぎがあれば、一人でいてもいいってことじゃん。
「……ただ、もう少しだけ、待ってほしいんだ。ちゃんと、ケリつけておきたいことがあんの」
宗旦狐の本心。
それをちゃんと聞いてから、あたしは大学の仕事を辞める。
これが、あたしの覚悟。
来年から宗旦狐は、常勤講師になる。
そうなったら、必然的に資料室スタッフとも絡みが出てくるはずだ。
その資料室スタッフがあたしだったら、絶対やりにくいと思うんだよね。
主にあたしが。
だったら、いっそ辞めてしまおうかなって。
お金も必要だし。
……ほんとは辞めたくないけど。
もっと先生たちと一緒にいたいけど。
でも、いつかは、辞めなきゃいけないんだよね。
……しょうがないよね。
母はあたしの考えに、渋々といった感じで了承した。
ありがたやありがたや。
これで当分は、結婚攻撃からは免れそう。
しかし、問題の宗旦狐の本心は、どうやったら確認できんだろう。
もう一回話すってなったとしても、なにを聞いたらいいのか。
ーーいや、聞くことなんかなんにもないか。
ちゃんと、宗旦狐から目を見て「嫌い」って言ってもらえれば、それでいい。
きっと、そう言ってもらった方が楽だ。
もうこれ以上、宗旦狐のことで悩まなくて済むし、めんどくさいこともなんにもなくなる。
……なんにも。
……うーん……でも、本当にそれで、いいのかなあ。
あたしはひたすらそんなことぐるぐるぐるぐる考えながら、一人、自分の部屋に閉じこもってマフラーを編み続けた。
気がつけばマフラーは、もう随分と長くなってた。