致しません
272
あたし、深いため息ついてから頭で整理する。
とりあえず、宗旦狐の説明からしよう。
「まず、その先生は佐々木巧って名前じゃないし、佐々木先生の息子さんでもないの。本当の名前は、約束だから言えないけど。仮に太郎先生にしとこう」
「なんで太郎先生の本名は言えないわけ?」
「だから、約束してるから、それだけは絶対言えないの!ーーで、その太郎先生にお見合い話きてて困ってるんですって相談したら、名前を公表しない代わりに、自分を彼氏ってことにすらばいいって言ってくれて、そんで、二人で写真撮ったり偽装したわけ」
「は?なにその少女漫画展開。面白すぎでしょ」
もう、母上、怒ってんだか面白がってんのかわかんない。
少女漫画って全然読まないからわかんないけど、こういう展開あんの?
まあ、いいや。
「容姿は太郎先生から借りて、名前は佐々木先生の長男から無断で借りて、妄想彼氏のできあがり。そんで、お見合い回避成功しましたー。嘘ついてごめんなさーい」
我ながら、全然心が篭ってない謝罪だな。
「わかった。それじゃあ、なるみは誰とも付き合ってないんだね?」
「いえす。でも、お見合いは致しません」
「あんたねえ、このまま収入も安定しないまま一人なんて……」
おおっと、また心配だから早く結婚しろ攻撃が始まるぞー。