ありがたい
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「そしたら、僕の知り合いを紹介してあげよう」
そう言って、大旦那はガラケー取り出して突然誰かに電話をかけだした。
「あ、もしもし?僕だけど。あのさ、月曜って予定ある?ちょっと大学に来てほしいんだけど。ーーわかった。じゃ、月曜ね」
え、はっや。
予定決まんのはっや。
おじさんたちってみんなこんななの?
「月曜、月川さん出勤日でしょ。知り合い来るから、その人にいろいろ聞くといいよ」
「いや、あの、どなた?」
「会ってからのお楽しみ」
と、大旦那はにやにや笑った。
どうせ暇だから、お客が来るのは構わないけど。
「それじゃあ、僕これから授業だから」
「あ、そうでしたね。お騒がせしてすみませんでした」
「いいえ。じゃあね」
あたしは紙コップと荷物を持って研究室を出た。
ついでに、今日出勤してる渡辺先輩に会いに行ってこよう。
そう思って、紙コップを捨てて資料室に向かう。
「こんにちはー」
と、あたしは資料室を覗く。
渡辺先輩は、パソコンの前に座ってた。
「あら、こんにちは。ーーどうしたの、その目」
あー、どうやら随分目が腫れてるらしい。
「アレルギー出ちゃったみたいで。そのうち治ります」
「そう……」
渡辺先輩は、それ以上目について追及してこなかった。
そのあと、数時間資料室に入り浸って、渡辺先輩の終業時間までお話ししてた。
夢占いとか、あたしが今日読んだ本の内容とかいろいろ喋ってるうちに、なんかどうにでもなるような気さえしてきた。
渡辺先輩は電車の乗り換えであたしと別れ際に、こんなことを言った。
「あんまり無理しないで、辛いときはちゃんと話すんだよ」
泣いたの、バレてたらしい。
でもなにも聞かず、そう言ってくれる渡辺先輩の優しさがありがたかった。
「ありがとうございます」
……できれば、もう少し一緒に働きたいんだけどな。