宗旦狐の、ばかああああああああ!!
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男は敵だ。
いつだって、そうだった。
今回もまた、そうだっただけのこと。
あんな人に、泣く必要なんかない。
あたしは一人だって大丈夫。
抱き枕もいるし、本の登場人物もいる。
前に、戻っただけ。
ーーなのに。
あたしの足は、大学に向かってた。
十号館、三階。
大旦那の研究室。
ノックすると、いつもの間延びした声が聞こえてきた。
扉を開ける。
「あれ月川さん、今日出勤日だったっけ?」
と、大旦那はとぼけた声で聞いてきた。
そのとぼけた声を聞いた途端、一度は止めた涙がまた噴き出す。
「もお……もお、あたし、にはぁ……あのクソ野郎っ、全然わかん、な……うえええええええ……!!」
大旦那の目の前で泣き始めると、大旦那はぎょっとした顔でソファから体を起こした。
「え、ちょ、待って、そんな大声で泣かないで。僕が泣かしたみたいになっちゃうから!」
そんなん知るか。
あたし、駄々っ子みたいにその場にうずくまって泣き続ける。
「宗旦狐の、ばかああああああああ!!ぶえええん……!!」
「わかった、話聞くから!ちょっと声抑えて泣いて!」
「うっ……ひっく……」
大旦那に言われて、頑張って声抑えて泣く。
でも、いや、これ無理だわ。
「……ごめ……無理いいいいいい……う、ぅええええん!!」
涙も声も止まんない。
大旦那はあたしの声を止めることを早々に諦めたらしく、息をついて再びソファに寝っ転がる。
「わかった。じゃあ、もう落ち着いたら呼んで!」
「は、いっ……ふええええええええん……!!」
……こりゃ、自分でも止めらんねえわ。