身の程知らずにも程があった
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「……そうでしたね。すみませんでした。馬鹿なことをしてたと思います。時間の無駄でした」
時間の、無駄。
ほお……そこまで仰いますか。
確かにあたしは、初め宗旦狐にあたしのこと好きになるなんて時間の無駄だって言った。
でも……そうか……。
宗旦狐にとって、あたしといた時間は無駄だったのか。
「もう、あんなこと二度としません」
「……教えてください。あたし、先生になにかしましたか?それとも、あたしが寝てた二日間でなにかあったんですか?」
もし、宗旦狐の身になにかあったのなら、教えてほしい。
あたしなんかが役に立つとは思えないけど、一人で考えるよりはマシだと思う。
でも、宗旦狐は鼻で嗤った。
やっと見せた笑顔は、これまでに見たことがないくらい冷たかった。
「もう、あなたが好きではなくなっただけです」
表情と同様、口調も冷たかった。
その言葉は刃物のように鋭利で、容赦なくあたしを突き刺す。
「なので、もうつきまとわないでもらえますか。迷惑です」
宗旦狐は、一切あたしの方を向こうとはしなかった。
ぽたぽたと、あたしの手になにかが落ちる。
雨かと思った。
でも、雨にしてはぬるい。
揺らぐ視界で、それが自分の涙だったことを知った。
「あ、はは。そう、ですよね。迷惑ですよね、こんな……デブスにつきまとわれたら。あはは」
知ってた。
あたしなんかが、宗旦狐の近くにいるなんて、おかしいことだったんだ。
でも、面と向かって言われると、やっぱりきついわ。
「すみません、でしたっ……」
あたしは宗旦狐に謝って、走って公園を出て行った。
ーーあたし、なにしてんだろ。
馬鹿みたい。
ほんと、身の程知らずの馬鹿だ。