おっと
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次の日、あたしは出勤日と同じ朝八時に家を出た。
図書館の最寄り駅に着いたのは、十時。
交通時間でたっぷり二時間はかかるような場所だった。
よくこんなとこまで暑い中通ったなあ。
図書館の隣には、比較的大きな公園がある。
公園の木々の葉は色づき、また夏とは違った顔を見せていた。
図書館に入ると、早速見知ったおばさま方を見つけた。
向こうもあたしに気づくと、気さくに声をかけてくれた。
なんか、差し入れでも持ってくりゃよかったかな。
でも、勤務中に差し入れ渡すのも迷惑か。
そんなこと思いながら、日本文学と日本文学全集の棚が見える位置に座って待った。
もしかしたら、あたしのこと見た途端に逃げるかもしれないから、なるべくこっちの様子がわからないようにハードカバーの本で顔隠しながら様子を伺った。
ーーで、二時間後。
もう、宗旦狐のこと忘れるくらい本読み漁ってた。
働いてたときから気になってた民俗学の本を読んでたんだけど、面白かった。
大学の授業と内容が被ってて、より理解を深められた感じ。
何気なく、作者確認する。
あ、これ、柳原先生が監修してる本だわ。
どおりで。
ーーおっと、目的を忘れていた。
一応、本戻すついでに一通り閲覧席回ってみる。
でも、宗旦狐はどこにもいなかった。
お腹空いたし、ちょっとお昼にするかー。
あたしは一旦、図書館を出た。