男がよおわからぬううう!
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後輩たちに捕まったせいで、お昼休みになっちゃった。
あたしは即座に資料室を閉めて、非常勤講師控え室に向かう。
と、ちょうど入り口で授業から帰ってきたばっかりの宗旦狐と柳原先生を見かけた。
「朝倉先生」
あたしが声をかけると、宗旦狐は笑顔を見せた。
「月川さん、退院おめでとう」
と、隣の柳原先生が言った。
「ありがとうございます。朝倉先生のおかげです。本当に助かりました。……あ、あの、よかったら……これから、お昼とか行きませんか?」
自分から、男をランチ誘うなんて、生まれて初めてだった。
で、でも、やっぱりお礼はしなくちゃいけないし……うええ、顔が!熱い!!
でも、宗旦狐はそんなあたしとは対照的に、涼しい笑顔を浮かべていた。
「月川さんが元気そうでよかったです。すみません、これから用事があるので。今日は失礼します」
宗旦狐はそう言って、足早に控え室に入って行った。
……え?……なに、あれ?
あたし、そんな思い込めて控え室の方を指差しながら目で柳原先生に問う。
柳原先生も、無言で大袈裟に肩をすくめて見せた。
なんか、恥ずかしがってたのが馬鹿みたい。
あたしはとぼとぼと資料室に戻った。
……宗旦狐、あたしのこと苗字で呼んでたな。
なにがどうなってああなったんだろう?
あたしが寝てた二日の間に、なんかあったとか?
それとも、助けたときに抱えたあたしが重すぎて引いたとか?
……ありえる。
「もお、男がよおわからぬううう!」
あたしは頭を抱えながら、一人ディスクに顔を突っ伏した。