……若いなあ
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資料室はいつもどおり、静か……だと思ってた。
「月川先輩!黄昏館でなにがあったんですか!?」
「あのときの若旦那、めっちゃかっこよかったー!」
「いやいや、若旦那はいつでもかっこいいから」
珍しく、資料室には学生たちで溢れかえってた。
茶道部の子から、あの日現場を見てたらしい学生まで。
その会話で初めて知ったんだけど、宗旦狐って学生からは若旦那って呼ばれてるらしい。
大旦那の後輩だからそういうあだ名をつけたらしいけど、誰がそういうのつけるんだろう。
「月川先輩と若旦那、SNSではちょっとした有名人ですよ」
「え?なんで?」
「なんか、うちの学生が若旦那が先輩を助けた瞬間を動画で撮ってて、それを流したみたいなんです。それで若旦那の人気急上昇、みたいな」
「でもって、うちの大学の名前も知れて、あのイケメンは誰だって話題になってます。きっと、ネット掲示板とかでは名前も流出しちゃってるんじゃないかな」
ま、ま、まじか……!?
ど、どうしよう。
若旦那ーーいや宗旦狐の顔と名前が親にバレたら、どうなるか……。
いや、落ち着けなるみ。
うちの親はネット掲示板なんて観ないし、SNSもそんなに使ってるわけじゃない。
きっと、時が過ぎれば忘れられるって。
大丈夫、大丈夫。
「ほら、これですよー」
と、後輩の一人が端末で例の動画を観せてくれる。
燃え盛る黄昏館。
その木造の壁を突き破って、袴姿の宗旦狐とあたしが外に飛び出す。
その瞬間、飛び出した所から小さな爆発が起きた。
その爆発から庇うように、宗旦狐があたしに被さる。
『なるみさん!大丈夫ですか、なるみさん!』
あー、宗旦狐、ばっちりあたしの名前呼んじゃってる。
てか、改めて観るとめちゃくちゃ恥ずかしいな。
「で、先輩と若旦那って、付き合ってんですか?」
「はっ?」
なにゆえそうなった?
「だって、若旦那、先輩のこと名前呼びしてるじゃないですかー!よっぽど親しくなきゃ、先生が名前呼びなんてしませんよ」
「そもそも、付き合ってもない人のために、わざわざ助けに行ったりしませんよね?」
周りの子たちが一斉に頷く。
なに、この子たち怖い。
「で、付き合ってんですか?」
「付き合ってません」
「嘘つきー」
「嘘じゃないって。若旦那に聞いてみな?きっと、あの爽やかな笑顔で『付き合ってません』って言ってくれっから」
「じゃあ、先輩は若旦那のこと好きじゃないの?」
「いい人だと思うよ」
「質問の答えになってなあいー!」
……若いなあ。
あたしにもこんな時があったんだ。
つい二、三年前だけど。