仏の苦笑
26
資料室に戻るため、二階に降りる途中で仏に会った。
「北条先生、こんにちは。今学期もよろしくお願いします」
「ああ、月川さん。こちらこそよろしくね」
「昨日、飲み会だったそうですね。二日酔い大丈夫ですか」
「まあー正直今日は休みたかったね。久しぶりに飲んだよ。僕よりももっと休みたかった先生いるだろうけど」
「佐々木先生?」
「違う違う。新しい非常勤講師の朝倉先生だよ。昨日は歓迎会だったんだ。その先生、下戸なのに気遣って僕のペースに合わせてたんだろうね。一時間もしないで潰れたよ!」
そんな嬉しそうに「潰れたよ!」とか言わないでほしい。
それにしても、仏にペース合わせようとするなんて自殺行為も甚だしい。
仏は穏やかそうに見えて、かなりの酒豪だ。
日本酒一合飲んでも顔色一つ変わりゃしない。
「朝倉先生、どんな人でした?」
「いい男だったよ。あれは学生にちょっと人気出るかもね。僕なんて直ぐに忘れられるよ」
ちょっと何言ってんの。
「あたしは、先生のこと忘れません。先生のお葬式だって出るって約束したじゃないですか!」
「うん、棺に君の卒業制作入れてね」
「まかせてください!お腹辺りに乗せときます!」
仏はそれを聞くと、苦笑を残して授業をしに向かった。