あのクソ狐
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「美月、お兄ちゃんのこときっぱり諦めました」
美月ちゃんは涙を拭ってこう言った。
ええ?あんなにお兄ちゃんラブだったのに?
あ、もしかして、髪切ったのってそういうことだったのか?
「なるみさんには、一生かかっても勝てる気しないんで。美月はお兄ちゃん以上にかっこいい人、探します」
あたしには一生勝てないって、なにがあってそう思ったのかはわからない。
でも、きっと美月ちゃんなら直ぐにいい人が現れるだろうな。
『頑張れ。応援してるよ』
と、端末見せる。
「……やっぱやだー!なんか悔しいー!お兄ちゃあん!」
……まだ、吹っ切れるのに時間かかりそうだな、こりゃ。
「美月、そろそろ帰るぞ」
巧さんが病室に入ってきて美月ちゃんを呼ぶ。
「あ、うん。パパが資料室に遊びに行くの許してくれたんで、またなるみさんに会いに行きますね」
あ、それは許されたんだ。
あたしは笑顔で頷いて見せた。
美月ちゃんが病室から出ると、巧さんはあたしの方を向いて、
「ありがとうございました」
と、礼儀正しく一礼してから出て行った。
ああ、巧さんも妹と親の間に挟まれて、いろいろ苦労してたらしい。
てか、ここ人生相談室じゃねえんだけど。
……ま、いっか。
あたしは紙袋の中を確認してみる。
箱詰めの高級そうなゼリーと、謎の茶封筒も入ってた。
茶封筒の中身を確認してみると、文化祭の日の写真が数枚出てきた。
それと一緒に、メモも出てくる。
『美月と花村さんが撮った、文化祭の日の写真を現像しました』
この、まるでお手本みたいな綺麗な文字は、巧さんの字かな?
この、文字が巧さんの性格そのものを現してるように思えた。
写真には、宗旦狐とあたしが会話してるようなものや、宗旦狐からお茶を出されてるようなものまで収められてた。
こんなの、いつの間に撮ったんだろ。
最後の一枚をめくると、宗旦狐の隣でぎこちなく笑うあたしの写真が出てきた。
これ、宗旦狐の端末で花村が撮ったツーショット写真だ。
これを印刷できたってことは、宗旦狐が誰かにこの写真を送ったってこと?
なんで他の人に写真は送れて、あたしには連絡一つよこさねえんだ?あのクソ狐。
見舞いに来たら文句言ってやる。
ーーこのとき、なにも知らなかったあたしは、愚かにも宗旦狐に対してそんなことを思っていたのだった。