人間だもの
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『美月ちゃん、髪切ったんだね。可愛い』
あたしは、笑って端末を美月ちゃんに向けた。
いや、ほんとに可愛い。
セミロングも可愛いかったけど、前髪ぱっつんのボブヘアもゆるふわ女子って感じでいいわ。
あたしがそれやると、不思議なことにこけしになっちゃうんだよな。
「……なるみさん、ごめんなさい」
と、美月ちゃんはまたそんなことを言って泣き始めた。
「もう、いいって……」
「違うんです。美月は人として、最低でした」
ん?どゆこと?
美月ちゃんは、巻き込んだことに対して罪悪感を覚えてたわけじゃないの?
「あの日、お兄ちゃんは一度黄昏館から出て来てたんです。でも、花村さんからなるみさんがまだ中にいるってこと聞いたら、なんのためらいもなく黄昏館に戻って行きました」
それが、花村の言ってた修羅場かな?
「美月……お兄ちゃんの手を掴んで、止めたんです。そのとき、心の中で、なるみさんが……いなくなれば……って……」
ーーああ、そうか。
それで、美月ちゃんはずっと泣いてるんだ。
自分のあまりに汚い部分を見てしまったから。
「ごめんなさ、い。美月、なんであんなこと……なるみさんに、いっぱい助けてもらったのに……ごめんなさい……!」
『美月ちゃん、それ、美月ちゃんが悪いんじゃない』
あたしは、端末を見せた。
美月ちゃんは嗚咽を漏らしながらそれを見る。
『美月ちゃんみたいな状況になったら、誰しもそう思うよ。それが、人間だから』
「にんげん、だから?」
『そう。でも、さっき美月ちゃん、あたしのこと見たとき、生きてたって泣いてくれてたでしょ?そうやって、生きてることを泣いて喜ぶことができるのも、人間なんだよ』
人間は、きっと汚い部分だけ持ってるわけじゃない。
きっと、あたしたちが見てるその人はほんの一部で、見てないところの方が多いんだ。
宗旦狐が、まさにそうだと思う。
あたしは、宗旦狐のほんの一部しか知らない。
その一部は、いい人だ。
でも、それ以外の宗旦狐を知らない。
世の中には、いろんな人がいる。
その人たちは、きっといろんな闇を抱えて生きてるんだろう。
でも、それを恐れてたら、誰も信じられないって、宗旦狐が教えてくれた。
……なら、あたしは、宗旦狐の闇を覗いてみたい。
信じてみたい。
『人生は一度きりだから、楽しまないと損だよ』
それが、どれだけ難しいことか、あたしは知ってる。
でも、美月ちゃんにもその努力をしてほしい。
あたしも、これからは楽しもうと思うから。
美月ちゃんは、笑い泣きながら頷いた。