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本当に、不器用な人だよ
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「月川さん。僕は朝倉がどんなものを背負って生きてるか知ってるから、月川さんに朝倉を推すことはできない」
大旦那は、宗旦狐が背負ってるものをあたしにも教える気はないらしかった。
それでも、宗旦狐からあたしを遠ざけようとするようなことを言うのは、恐らく忠告なんだろうと思う。
そしてその忠告は、美月ちゃんの件であたしを巻き込んでしまったことへの償いもこもってるのかもしれなかった。
大旦那は、言いづらそうに続ける。
「でも、もし……仮に、月川さんが本気で朝倉のそばにいたいと思うのであれば……あいつの支えになってやってほしい。あいつ、ああ見えて結構脆いんだよ」
……ふふ。
大旦那、あなたって人は。
本当に、不器用な人だよ。
「わかり、ました」
まだ、宗旦狐への気持ちはわからないけど、大旦那の宗旦狐に対する気持ちはよくわかった。
「たいへん、でしたね」
あたしがそう言うと、大旦那は複雑そうに笑った。それから、またふいに顔を逸らして、
「僕、煙草吸ってくる」
と言って席を立った。
大旦那が病室を出ると、入れ替わりに浮かない顔の美月ちゃんが入ってくる。
今度はこっちか。