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大旦那の苦悩

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大旦那がそんな真剣な顔するなんて、珍しい。

あたしは大旦那に近くの椅子をすすめた。


大旦那は椅子に腰かけると、神妙な面持ちで話しだす。


「柳原先生から聞いたんだけど、月川さんは朝倉についてなんも聞かされてないんだって?」


あたしは頷いた。


「そう……」


なにか、悩んでるように見えた。

あたしは、大旦那の言葉を待つ。


「柳原先生からはね、月川さんに余計なこと言うんじゃないって言われてるんだ。でも、僕はそれが本当に月川さんにとっていいことなのかわからない。前まではーー冷たい言い方するけどーー月川さんは僕にとっては他人だから、正直、どうなろうと興味はなかった。でも、ここまで巻き込んじゃったら、そうも言ってられないじゃん?」


じゃん?って、同意を求められても。

大旦那は一体なにをあたしに伝えたいんだ?


「月川さん。朝倉は、やめておいた方がいい」


大旦那は、あたしの目を真っ直ぐ見てこう言った。


ーーなんで。


なんで、大旦那が宗旦狐をそんなふうに言うの。

自分の教え子で、家族同然の付き合いしてたんでしょ。

一番、宗旦狐のこと、理解してるのは大旦那じゃないの。


あたしの思いが顔に出てたらしい。

大旦那はあたしから目を逸らして、言い訳するみたいに口を開いた。


「もちろん、朝倉はいいやつだよ。ただ……背負ってる物が大き過ぎる。僕も元奥さんも、朝倉が背負ってるものを娘には知ってもらいたくなかった。だから、遠ざけてきたんだ。どんなに朝倉と美月から嫌われても」


宗旦狐が、背負ってるもの?

あたしにはとても想像できない。


「でも、朝倉をほっとけなかった。あのまま、あいつを一人にしてたら、いつか……その……死んじゃいそうで」


大旦那は言葉を選んでるみたいだけど、それ、かなり直球な表現だと思うよ。


「自分でも、つくづく最低だと思うよ。朝倉のことはほっとけないけど、美月のこともある。結局、どっちつかずで、必要なときだけ朝倉を利用して、都合が悪くなれば突き放すみたいになっちゃったんだから。ーー柳原先生から、こっぴどく叱られたよ。『助けられないんだったら、最初から手を出すな』って」


大旦那は力なく笑った。


つまり、宗旦狐のことは教え子だし一人にはしたくないけど、大旦那は教師である以前に一人の父親でもあったわけだ。


それで、今までどっちつかずでいたけど、結局は娘の美月ちゃんを選んで、宗旦狐を突き放したと。


大旦那の苦労もわかるけど、柳原先生の言うことはごもっともだ。

救えないんだったら、最初から手を出さない方がよかったのに。


……いや、でもそしたら、宗旦狐はーー

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