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そうだ……おおばあ様だ……
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「なるみ、よくお聞き」
暗闇の中で、優しい声が聞こえた。
誰?
いつか、どっかで聞いたことがある。
だんだんと視界が明るくなった。
ここ、母方の祖父母の家のお座敷だ。
目の前には、布団を足に掛けて上半身を起こす老女と、小さな女の子がいる。
この老女は……そうだ……おおばあ様だ……。
それで、この小さい子は、あたし。
おおばあ様は、小さいあたしの頭をしわくちゃの手で撫でて言った。
「人生は一度きりだ。だから、めいいっぱい楽しむんだよ。でなきゃ、損だからね」
ああ、そうか。
この言葉、おおばあ様から聞いたんだ。
「なるみはまだ小さいから、いつかおおばあのこと忘れちゃうかしらね」
「おおばあちゃまのこと、絶対忘れないもん」
「そうかい?嬉しいねえ」
おおばあ様は、本当に嬉しそうに笑った。
ごめんなさい、おおばあ様。
でも、思い出せた。
……あたし、ちゃんと楽しめてるのかな。
ーーーーーー
瞼が、重い。
あたしは再び暗闇を漂ってた。
「まだ起きない?」
と、不安げな母の声が聞こえる。
そろそろ、起きなきゃ。
あたしは、うんしょっと瞼に力を込めてこじ開けた。