三人称
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その場にいる誰もが、あの燃え盛る炎の中にまだ人がいるという事実に震えた。
遠くから、サイレンの音が聞こえてくる。
花村は、涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら朝倉に縋り付いた。
「なるみを……なるみを、助けてください!お願い……!」
宗辰は、震える花村の肩にそっと手を添えた。
「なるみさんが、どこに向かったのか教えてください」
ーーああ、これは愛しきれなかった彼女への贖罪だ。
……とんだ偽善だが、それでもいい。
「なるみは、水場の隣の放送室に行ったんだと思います」
「わかりました」
「お兄ちゃん……!」
と、宗辰の手を美月が掴んだ。
その目は明らかに、「行くな」と言っていた。
美月の背後に立つ巧に目配せをする。
巧は小さく頷いた。
宗辰は美月の手を一瞬で振り払い、走り出す。
「お兄ちゃん!やだーっ!お兄ちゃんっ!!」
宗辰の背中を突き刺すような、美月の慟哭が聞こえる。
振り返ると、暴れる美月を巧と佐々木と柳原が必死に止めているのが見える。
大人の男三人がかりでは、さすがに抜け出すのは無理だろう。
宗辰は安心してフランス庭園とは反対側に向かった。
こちらはまだそれほど火の手は回っていない。
壁に備え付けの消化器があった。
それに、蛇口とバケツもある。
宗辰はバケツいっぱいに水を張って、それを頭から被った。
そして、消化器で窓を割る。
酸素が一気に室内に流れ込んだせいか、炎の勢いが増した気がした。
すかさず、その炎を消化器で消す。
入り口を確保してから、室内に入り込んだ。
ーーもし死んだら、そのときは彼女になんて詫びようか。