三人称
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『火事です!火事です!黄昏館フランス庭園側の部屋から火の手が上がっています!至急、外に避難してください!』
天井のスピーカーから聞こえてくる声は、間違いなく月川なるみのものだった。
その声が聞こえた途端、むせ返るような煙の臭いがする。
それに加え、暑さを感じた。
母親や高校生たちが、悲鳴を上げて一斉に我先にと外へ逃げ始める。
「朝倉先生!」
部長の子が、泣きそうな声で宗辰を呼んだ。
「落ち着いて。みんなも直ぐに外に避難しなさい。いいね?」
「は、はい!」
宗辰はお客と茶道部員たちの後ろにつきつつ、フランス庭園側の廊下を見る。
火の手は、直ぐそこまで迫ってきていた。
木造のせいか、火の回りが速い。
「二階にまだ人はいる?」
出口近くの階段から降りてきた学生に問いかける。
「いえ、わたしたちで最後です!」
「ありがとう」
……嫌な予感がする。
宗辰は後ろ髪を引かれつつ、自分も黄昏館を出た。
「朝倉!」
と、柳原と佐々木が人混みを掻き分けて近づいてくる。
「美月は!?」
「お兄ちゃん!」
佐々木の声と、美月の声が重なる。
佐々木は美月を確認すると、思いきり抱きしめた。
「なるみさんと花村さんは?」
どうか、どうか避難しててくれ。
そんな願いを込めて、朝倉は巧に聞いた。
しかし、巧は首を横に振る。
「別行動だった。俺と美月は先に昼食を買いにーー」
「朝倉先生!」
と、フランス庭園の側から、なるみの幼馴染の花村が駆けてきた。
なるみの姿は、ない。
「なるみが!なるみが出てこないの!ずっと呼んでるのに、全然出てこないの!」
ーーああ、嘘だろ。