これは、がちでやばいやつ
244
あたしと花村は、洗った茶碗を持って廊下を歩く。
そろそろ人も捌けたかな。
「でもさ、いいんじゃない?朝倉先生」
「え?どこが?」
「見た目も悪くないし、どことなく品もあるしさ。あれ、絶対お育ちいいでしょ。それに、なるみこと気に入ってるみたいだし」
あー、あの立ち居振る舞いは育ちの良さからきてるのかな。
前に大河原から言われた「お里が知れる」ってやつかな。
もちろん、いい意味で。
「試しに付き合ってみたら?」
「いやいや。それとこれとは話がべ、つ……」
ーーくんくん。
なに、この焦げた臭い。
急に、なんか焚き火でもしてるような臭いしてきた。
どっかで焼き芋でもしてんのか?
てか、なんか暑いーー
「なるみ!」
と、花村が急に叫び出す。
花村が指差した方を見ると、廊下の先の部屋から煙と火が上がってた。
火は、既にその扉や壁を覆ってる。
「火事!?」
窓の外から、気味の悪い笑い声が聞こえた。
廊下の窓からフランス庭園を見ると、バイクに乗った見覚えのある男女が数人いる。
手にはライターを持ってた。
「ちょー楽勝だったわー」
「焼け死ね焼け死ね」
あいつら!
美月ちゃんに集団で絡んでた!!
あたしと目が合うと、奴らは直ぐにバイクで逃げてった。
「や、やばいよ!煙が!」
花村が今にも泣きそうな声で叫ぶ。
これは、がちでやばいやつ。
「花村、ここ抜けて外出て消防車呼んで」
あたしは窓を開けて花村をそこから逃す。
「なるみは!?」
「まだ茶話会のほかに二階とかにももしかしたら部員がいるから、知らせないと」
茶話会がやってる部屋に行くにはあの部屋の前を通るか、ぐるっと回るしかない。
でも、あたしが回ってる間に、火と煙のほうが先にたどり着くかもしれない。
……確か、水場の隣が放送室だった。
「放送室行ってくる!」
あたしは、茶碗を置いて走り出した。