宗旦狐と撮影会
238
「どうぞ」
と、宗旦狐に茶碗を差し出される。
……えっと、差し出されたら、どうするんだっけ?
一礼
茶碗眺める
▶︎硬直する
「なるみさん、もしかして抹茶苦手でしたか?」
「い、いや、どうやって飲んだらいいのか……」
あたしが眉寄せて戸惑ってると、宗旦狐はあははと声を上げて笑った。
「作法なんて、気にしないでいいんですよ。ほら」
促されて隣を見ると、美月ちゃんと巧さんと花村は、部員の子に点ててもらったお茶ともらったお菓子を普通に飲んだり食べたりしてた。
あたしだけ恥ずかしい子みたいだろうが。
「いただきます」
あたし、一口だけ抹茶を喉に流し込む。
抹茶特有の、まろやかな苦味が口いっぱいに広がった。
お菓子の抹茶味と全然違うや。
「美味しいです」
「よかった」
宗旦狐は、嬉しそうに笑った。
ーーああ、ちゃんと笑ってくれる。
よかった。
「お兄ちゃん、美月とツーショット撮ろ!」
と、美月ちゃんが宗旦狐の腕に絡んでせがんだ。
「あたしが撮ってあげる。はい、寄って寄って」
あたし、宗旦狐と美月ちゃんのツーショットを撮ってあげた。
そしたら、部員たちがざわめき出す。
「あの!わたしも撮って頂けませんか?」
「あたしも!」
「わたしもお願いします!」
ひえー、宗旦狐、モテるんだなあ。
「はーい、朝倉先生と写真撮ってほしい人あたしに端末渡して一列に並んでー」
ということで、謎の宗旦狐との撮影会が始まった。
あたしは、背後で花村が厳しい表情してるとは知らず、部員たちのために写真を撮り続けた。