心細いわな
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約一時間後、資料室の扉が鳴った。
「はい!!」
あたし、慌てて編物をしまって返事する。
自分が思ってた以上に大きい声が出て、自分で自分の声に驚いた。
「こんにちはー」
と、呑気な声と共に顔を出したのは、待ちに待った宗旦狐だった。
こんだけ宗旦狐のことを心待ちにしてたこと、今までなかった。
あたし、宗旦狐に摑みかかる勢いで詰め寄る。
「美月ちゃんは!?」
「落ち着いてください。ほら、このとおり」
苦笑する宗旦狐の後ろから、美月ちゃんがひょっこり顔を出す。
「美月です」
なんだ、よかった。
お嫁に行けないような顔にはなってない。
あたし、二人を資料室の中にいれて、椅子に座らせた。
「で、刑事事件ってどういうことなんですか」
「今朝、テレビは観ましたか?」
テレビ?
いや、朝はのんびりしちゃうからいつもテレビは観てない。
あたしは首を横に振った。
「ニュースになったんです。あいつら、夜中に美月が通う高校に進入したらしくって、それで教室の窓ガラス何枚か割ったみたいで」
学校の窓ガラス割るって、この時代に本当にやる人っているんだ!?
「しかも、校門には『佐々木美月殺す』とか書かれた紙が何百枚も張られてて。俺、実物を見たんですけど、そりゃあもう汚い字でした。一瞬、草書かと思いましたから」
そこ?
いやでも本当に、どんだけの時間かけて何百枚も紙に書いたんだろう。
その労力、他に使えばいいのに。
「それで、警察には行ったんですか」
「さっき、うちに警察の人が来ました。パパも兄貴もいなくて、それでお兄ちゃんに無理言って来てもらったんです。事情聴取なんて初めてで、心細かったから」
なるほど、それで宗旦狐、今日は来るの遅かったのか。
そりゃあ、女の子一人で事情聴取されるのは心細いわな。