疑わしい
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「でも、お兄ちゃん、ナイフ持ってた奴に腕を斬りつけられたんです。不良仲間が逃げ出した後、凄い血が出てるのに、美月は何もできなくて。ただ、兄貴が止血してるの、泣きながら見てることしかできませんでした」
ああ、腕を数針縫ったって言ってたっけ。
それにしても、止血までできる高一って……いや、もう巧さんについて考えるのやめた。
「そのとき、お兄ちゃんはこう言ったんです。『暴力っていうのは、誰かの大切な人を傷つけることだ。美月ちゃんには、もう誰かを傷つけるようなことをしてほしくない』って。あんなクソどもでも、心配してる親とか仲間はいると思います。だから、美月はもう手は出しません」
宗旦狐もいいこと言う。
でも、もう少し穏便に解決できなかったのだろうか……。
それこそ、警察呼ぶとか。
「その日から、お兄ちゃんは美月と会わなくなりました。連絡も、一切取らなくなりました。未だに理由はわかりません。多分、パパかママが、もう関わらないでくれってお兄ちゃんに言ったんだと思います」
「みたいだね」
そう返事すると、美月ちゃんは身を乗り出して聞いてきた。
「美月と会わなくなった理由、お兄ちゃんから聞いたんですか!?」
「いや、理由までは教えてくれなかった。ただ、会わなくなったって聞いただけ」
本当は、大旦那が宗旦狐に頼んだことも知ってるけど、そんなこと言ったらパパの威厳に関わる。
だから、黙っておいた。
「そう、ですか」
「そんなことより、あいつらどうするかでしょ。このままつきまとわれてたら、本当に進学に影響するよ」
「それは、させません」
と、ふいに背後から声が聞こえる。
振り返ると、制服姿の巧さんが立ってた。
「あ、兄貴?まさか、ついてきてたの?」
「巡回ついでに寄っただけだ」
確かにここ、巧さんが巡回してるっていう駅の中のカフェなんだけど、偶然にしては登場の仕方ができすぎてる気がする。
疑わしい。