ちょいツラ貸せ
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「美月ちゃん、大丈夫!?」
あたしが駆け寄ると、美月ちゃんは一瞬目を大きくさせて、直ぐに逸らした。
「今の、見なかったことにしてください」
「え?」
「余計なこと言うなっつってんだよ!」
美月ちゃんは、あたしの胸倉掴んで睨みつけながらそう怒鳴った。
ぶちっ。
あ?こいつなにほざいてんの?
「あたしがどんだけ勇気出して叫んだかわかってて言ってんの?人に助けてくれもらって第一声がそれ?なめてんの?」
「助けてくれなんていつ誰が言ったんだよ!」
「こちとら、てめえの周りの人間にかなり世話になっとんじゃワレ。あたしはてめえが傷ついたら悲しむ人たちのために勇気出して叫んだんだよ。勘違いしてんじゃねえぞ、容姿だけのくそ馬鹿女が。てめえの周りの人間もくそだったら、自分もボコされるかもしれないリスクまで負ってわざわざてめえなんか助けるかよ」
美月ちゃんの敵意剥き出しだった目が、少しだけ泳ぐ。
それから、ゆっくりとあたしの胸倉から手を放した。
「……ごめんな、さい……ありがとうございました」
「最初っからそう言えや。ったく、首しまるかと思ったわ。ちょいツラ貸せ。近くのカフェでいいよな?」
美月ちゃんは立ち上がって、小さく頷いた。
路地裏を出て、いつもの賑やかな通りに戻る。
そしたら、一気に現実に引き戻されたような気がした。