カーキ色の毛糸
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結局、宗旦狐は最後まで理由を教えてくれなかった。
「ミステリアスな方が、夏目漱石のこころの先生みたいでしょう?」
とか言って、誤魔化された。
「全部知ったときには、朝倉先生の死後だったとか笑えませんからね」
「大丈夫です。俺はなるみさんを置いて自殺なんてしません。逆になるみさんが先に死んだら、俺は後を追います。どこまでも追います」
「重い!」
本当にどこまでも追いかけてきそうで怖かった。
終業後、あたしは寄りたいところがあるからと言って、宗旦狐の車には乗らなかった。
それを断るときも、
「俺がついてきたらまずい場所に寄るんですか?」
とか、面倒くさいこと言われたけど、なんとか断った。
あの人、最近なんか一気にあたしとの距離詰めてきてる気がする。
知らないうちにあたしもそれを許容しちゃってて、なんか、やっぱりちょっと怖かった。
寄るとこがあるっていうのは、嘘じゃない。
手芸屋に寄りたかった。
寒くなってきたし、久々にマフラーでも編もうかと思って。
どうせ暇だし。
手芸屋には季節だからか、いろんな種類の毛糸が売ってた。
「何色にしよっかなー」
ピンクはもうちょっとこの歳じゃつけらんないなー。
とか考えてると、ふとカーキ色の毛糸が目に入った。
抹茶みたいな色してて、宗旦狐に似合いそう。
……はっ!
あたしゃ、なに考えてんだ。
こんなデブスが作ったマフラーなんて、つけてくれるわけない。