20/416
酒は飲んでも飲まれるな
20
あたしは落ちてた眼鏡を野次馬から受け取って、半ば投げつけるように男に渡した。
「いやあ、ごめんごめん。ありがとうね」
男は眼鏡をかけながら、人の良さそうな笑顔で悪びれた様子もなくこう言う。
もう、あたし、腹立ってしょうがない。
男をゴミクズみたいに見下げながら、ついこんなことを言ってしまった。
「いい歳した大人が、限度も弁えずに酒飲んでんじゃねえよ。くそが」
多分、あたしも酒が残ってたんだと思う。
普段、こんな人目があるところでこんなこと死んでも言わないもん。
男は目を大きく見開いてあたしを見てた。
気がつけば、周りの野次馬たちは男からあたしに視線を移してる。
あたし、恥ずかしくなって男に背を向け、野次馬の間を縫って足早にその場を離れた。
とにかくホームにいたくなくて、階段を上って改札に向かう。
もうしばらく、頭冷やそ。
窓口で出してもらい、あたしはその足でネットカフェに向かった。