ひえ、男の人の手
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「なるみさん、俺はあなたが好きです」
そんな、真顔で面と向かって言わんでくれ。
もう、なるみのHPは0よ。
「なるみさんが信じてくれるなら、何度だって言います。あなたが好きです」
0だっつってんだろ。
オーバーキルかよ。
「なるみさんは、自分なんかを好きになる人なんていないと思ってるんじゃないですか?」
……そうだ。
人間は愚かしい。
異端のあたしなんか、好きになる人なんて家族ぐらいしかいない。
でも、それであたしは充分だ。
……充分なのに。
「人間って、なるみさんが思ってる以上にいろんな種類がいるんですよ。なるみさんは、ただ自分を好きになる人間を知らないだけです。ーーなるみさんは、化け狸を見たことがありますか?」
なんでそこで化け狸?
「ないです、けど」
「でも、見ていないだけで、その化け狸が存在しないとは言い切れないと思いませんか。それと同じです。知らないというだけで、その人がいないとは限りません」
うん、まあ、確かに。
そのとおりなんだろうけど。
「あなたが思ってる以上に、この世にはいろんな人がいるんです。人類全てを信じられなくったっていいじゃないですか。ただ、周りの一部の人だけを信じられれば、それでいいんですよ」
……人間の全員が全員、愚かしいわけじゃないってことはわかってる。
でも、誰しも必ず、闇は抱えてるもんだ。
あたしは、それを覗いてしまった。
その闇を、宗旦狐も必ず抱えてるはずだ。
それをまた覗いてしまうのが、怖かった。
「これは、昔とある子から教えてもらったんですけどね。人生は一度しかないんだから、楽しまないと損らしいですよ」
ーーなるみ、よくお聞き。人生は一度きりだ。だから、めいいっぱい楽しむんだよ。でなきゃ、損だからね。
なんだろう。
あたしも、昔聞いたことある気がする。
凄く、小さい頃。
それが、どれだけ大変なことか、知らなかった頃。
「……そうですね。いつか、そう思えるようになれたらいいと思います」
「俺がいますから。いつでも頼ってください」
宗旦狐はそう言うと、笑顔であたしの手を握った。
……ひえ、男の人の手。