本当に好きでいてくれてるなら、ね
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あたしは、この綺麗な光景とあたし自身の存在とに、とんでもない矛盾が生じてるように思えてしょうがなかった。
ここに座るべきは、あたしなんかじゃない。
もっと相応しい人は、いくらでもいるだろうに。
でも、隣の宗旦狐は、そんなあたしの気も知らないで上機嫌だ。
「楽しそうですね」
我ながら、なんて可愛げがない言い方だろう。
でも、相変わらず宗旦狐は気を悪くしたような様子は見せない。
「いいえ、幸せなんですよ」
「……幸せ?」
「なるみさんがいてくれるから、俺はそれで充分幸せなんです」
真顔でこんなこと言えるから、本当にこの人凄い。
「なるみさんは、自分が嫌いですか」
宗旦狐は唐突に、あたしの心を突き刺すような鋭い質問をする。
たぶん、あたしはあたしが嫌いなんだろう。
いなくなってしまえって、何度も思った。
あたしでなくたって、他の誰かがいてくれる。
それなのに、わざわざあたしを選ぶ宗旦狐が理解できなかった。
でも、あたしは宗旦狐にそんなこと言えない。
宗旦狐の言うとおり、あたしは恩人が傷つくようなことは言えないのかもしれなかった。
「誰かが本当に、あたしを好いてくれるなら、あたしはあたしを嫌うべきじゃないと思います」
本当に好きでいてくれてるなら、ね。
「……帰りましょう」
これ以上ここにいると、宗旦狐に中身を見られてしまうような気がして嫌だった。
あたしは立ち上がってから服についた砂を払って、駐車場に向かった。