192/416
あたしには似合わないなあ
192
ーーあたし、なにやってんだろう。
貧血起こして、仕事早退して、焼き肉ランチ食べて、今は海にいる。
ああ、夕日が眩しい。
「なるみさん、もっと近づいてもらえますか。でもって、もう少し笑ってください。ーー引きつってます」
ーーほんと、なにしてんだろ。
あたしは海岸で、海を背景に宗旦狐と肩を並べてた。
宗旦狐が自撮りモードで向けてくる端末に、笑顔浮かべる。
にしても、男と二人で写真を撮ることが、ここまで難しいとは思わなんだ。
まず、男と二人だけの状況になっても発狂しないことを褒めてほしい。
「はい、ちーず」
もう、宗旦狐との距離も、あたしの精神的限界もなにもかもが近い。
恥ずかしすぎる。
宗旦狐は、なにが楽しいのかずっと上機嫌だった。
一通り写真撮った後、海岸に座って海を眺める。
海の近くに住んでるのに、こんなふうに海を見眺めたことなんかなかった。
赤い空。
輝く水面。
白波の音。
でもって、隣の宗旦狐。
正直言って、ものすごく落ち着く。
この世って、こんなに綺麗なもんだったっけって思う。
でも……やっぱ、あたしには似合わないなあ。