本当に、なにも
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「それで、あの日のことも思い出しましたよね?あなたがうちから盗んだ茶碗。あれは、一体どこにいったんでしょう?」
うちから盗んだ……茶碗!?
えっ、ちょっ、待ってよ。
この人、まさか宗旦狐の家から茶碗盗んだの!?
「ま、待ってくれ。あれは仕方なかったんだ。生活費が足りなくて仕方なく……!」
実父は、警察官の巧さんと窃盗被害に遭った宗旦狐を交互に見て後退る。
巧さんと宗旦狐は、容赦なく迫った。
「構いません。今更それを咎めたりするつもりはありませんから。ーーその代わり、金輪際、あなたからなるみさんに近づくのは、やめていただけますね?」
「わ、わかった!もう近づかない!」
実父は、あっさりと、あたしに金輪際自分から近づかないことを誓った。
……本当に、あっさりと。
もちろん、あたしは実父にとってただのいい金ヅルだって、どこかで気づいてはいた。
でも、ここまであっさり認められるとは、思ってなかった。
あたしは、手の中の木箱に視線を移し、持ってたバッグからペンと手帳を取り出した。
もう、涙は止まってた。
「ねえ」
あたし、実父に声をかける。
「なるみ、金なら……」
「違うよ。もう、あなたにはなにも期待してない」
本当に、なにも。
「これに、家の住所書いて。ーーおばあちゃんに、手紙書きたいから」