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それだけは譲れない
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十一号館一階の各教室で発表を行っているゼミを一室ずつ回り、発表中の四年生の勇姿をカメラに収める。
一時間くらいでひと通り撮り終えたので、次は二階に上がることにした。
そのとき、階段の中段あたりで、ぐらりと視界が揺らいだ。
思わず、手すりにしがみつく。
「なるみさん?大丈夫ですか?」
と、宗旦狐の声が頭上から聞こえた。
顔を上げると、心配そうにこっちに手を差し伸べてた。
「……平気です」
目眩は、少し目を閉じたら治った。
あたしは宗旦狐の手を取らずに、再び自分の力で階段を上がる。
「具合が悪いなら、無理はしないでください。写真なら代わりに俺が撮りますから」
「本当に、大丈夫ですから」
宗旦狐にそんなことさせたら、あたしのこの大学での存在意義がなくなっちゃう。
仏から推薦してもらったこの仕事だけは、なにがあっても自分でこなしたい。
それだけは、譲れなかった。




