155/416
あたしがあたし?
155
……理由なんてない、か。
いつの日か、母が言っていた。
「恋はするものじゃなくて落ちるものなのよ」って。
恋をすることは、相手を好きになることなんだと思う。
つまり、唐突に、その人のことが好きになるってことなのかな。
今のあたしには、ちょっとよくわからない。
でも、人間を好きになれる美月ちゃんは、宗旦狐の言葉が少しだけ理解できたらしい。
美月ちゃんもまた、宗旦狐のことを好きになったことに理由なんてないのかな。
宗旦狐は、続ける。
「あえて理由を当てはめるとするなら、それは、なるみさんがなるみさんであるからなんだ」
……あたしが、あたし?
そりゃ、あたしは他の誰でもない、あたしだ。
美月ちゃんだって、美月ちゃんは美月ちゃんだ。
ーーあ、なんとなく、わかったかもしんない。
美月ちゃんはあたしじゃないし、あたしは美月ちゃんではない。
つまり、他の誰でもなく、あたしでなきゃだめだって、そういうこと?
なんだそれ。
理由がないのとおんなじだ。