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なにが、いけないんだろう
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宗旦狐は、美月ちゃんが落ち着くまで何も言わなかった。
その顔からは、感情が読み取れない。
憐れんでるのか、嬉しく思ってるのか、それとも迷惑がってるのか。
あたしにはわからなかった。
「なんで……美月じゃダメなの?どうしてなるみさんなの?」
突然名前呼ばれて、どきっとする。
……でも、そうだ。
美月ちゃんはあたしなんかよりずっと可愛い。
同じ人間かどうか疑うくらい。
髪の毛はつやつやだし、シャンプーの匂いするし、まつ毛は長いし、おめめだってぱっちりだし、洋服屋のマネキンみたいな体形してる。
中身は……まだそんなに知らないからなんとも言えないけど、あたしとは違ってちゃんと人間を好きになれる。
なにが、いけないんだろう。
宗旦狐は、小さな子どもに言い聞かせるようにこんなことを言った。
「美月ちゃん、人が人を好きになることに、理由なんてないんだよ」