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実父の癖
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「あー、珍しく残業だったんだよね。明日も仕事だから、家遠いし今日は泊まろうと思って」
「そんな遠くに引っ越したのか」
引っ越したのは、この実父が買ったマンションのローンが払えなくなったせいだった。
だから、引っ越したことは知ってるに決まってる。
罪悪感からか、実父は申し訳なさそうな顔をした。
あたし、慌てて話題を変える。
「そんなことより、パパは?おばあちゃん元気なの?」
小さい頃は、よく遊びに行った父方の祖父母の家。
今では、祖母と実父の二人だけで住んでるらしかった。
気を遣って話題を変えてみたものの、実父は祖母のことを聞くと、さらに表情を暗くする。
「実はな、ばあちゃん……ちょっと体調崩しててな」
「えっ、大丈夫なの?」
「自業自得だ。俺が金遣い過ぎたせいでばあちゃんの治療費払えなくてな。なんとか今は一生懸命働いて貯めてるけど、俺ももう歳だから、稼げる金も限られてる。バチが当たったんだな」
実父は、自虐的な笑みを浮かべた。
この笑みは、実父の癖のようなものだった。