110/416
あの人は……
110
大学の最寄り駅の方を通って、平塚に向かう。
土日でも今日はそんなに混んでなかった。
一時間もしないで到着できそう。
見慣れた街並みを眺める。
ここを曲がれば大学だ。
今日は土曜だから、知り合いは誰もいないかな。
そんなこと考えてたとき。
よれよれの背広姿の中年男が目に入った。
あたしは、その人のことをよく知ってた。
中年男は古いオフィスビルに入って行った。
そのオフィスビルには、男が働いてた会社の営業所が入ってた。
「どうかしましたか?」
宗旦狐が不思議そうに問いかけてきた。
あたしは、いつの間にか身を乗り出してその男のことを見てた。
「いえ。なんでもないです」
見間違いじゃない。
あの人は……。