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あたしの箱の中身
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「……なるみさんが、そう言うなら」
宗旦狐、少し複雑そうな笑みを浮かべる。
あたしがそう言わなくても、約束したんだから普通行くでしょ。
大人は無責任で、身勝手で、嘘つきだ。
子どもの頃、あたしはそう思ってた。
でも、違った。
無責任で身勝手で嘘つきなのは、大人じゃない。
人間だった。
幼い頃、絶対的存在だった父も母も、みんな人間だった。
そして、あたしもまた、人間だった。
だから、あたしは思う。
来世は化け狸になろう。
化け狸になって、人間に紛れて、心のどこかで人間を憐れんで生きていたい。
……そんな、浅ましいことを考えてる時点で、やっぱりあたしは人間だ。
「なるみさん」
宗旦狐が呼ぶ。
「なるみさんも一緒行きませんか」
「行きません」
この人は、きっと、なにも知らない。
あたしが男だけでなく、人間を嫌ってるってことや、その理由も。
でも、それでいい。
そうであってほしい。
これは、誰にも知られたくない。
あたしの、箱の中身だから。