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禍祓日霊  作者: 舞端有人
19/20

第弐拾之幕

「あいたっ!」


 足元の感覚がなくなった後、暫くすると私はどこか良く分からない場所に落とされたみたいだった。突然の事だったから尻もちをついてしまったけど、地面が少し柔らかったのが不幸中の幸いかな。


「いてて……。私は……いったい? ここは何処よ」


 辺りを見回してみると、そこは一面暗闇が広がっていた。只、何故か自分の姿ははっきりと見れていて、私が仄かに光っているのか、私を中心として足元とその周りが微妙に見える。グニグニと少し柔らかい地面は細かな筋がついていて、何となく生き物みたいな感じがした。但し、触れてみたところで暖かい訳でも無いし、なにか反応が返ってくることも無かったから、単に地面なのかもしれない。

 とりあえず直ぐにどうにかなることも無さそうなので、一時的な身の安全を確認した私はついさっきから今に至るまでの間に私の身に何が起きたのか順を追って整理し始める事にした。

 お母さんと一緒に禍祓いに出て、禍を祓った後で強い日の力を感じて、その力の感じる方向へ引き寄せられるように走っていた事は覚えている。そこで私は曲がり角を曲がって……最後に見たのは暗闇が視界を埋め尽くして行く光景。


「そうだ……日の力……」


 そこで私は息を整えて日の力が使えるかどうかを試してみる。胸から全身に力を行き届かせるようにしてみると、力は何の問題も無く仕えて、日の力の強さに応じてさっきよりも周りがほんの少し明るくなった。

 次に自分の身体と装備の事を確認してみると、特に怪我とかは無かった。まぁお尻はまだいたいけど。

ただ、どこを探しても弓が無くて、矢の方も矢筒の中には一本も無く、どこで落としてしまったのかも全く覚えていない。残っていたのは札が数枚と、右手に嵌めたままの勾玉、それと今まで殆ど使った事すらない短刀のみだった。

 さっきまで私が感じて追っていた日の力もまだ感じ取れる。なんだったらさっきまで感じていたよりも強く感じるぐらいだ。でも、日の力よりも更に強く感じる物がもう一つ。


「これは、禍の気配だね……」


 あまりにも大きすぎて最初はよく分からなかったけど、今私がいる場所全体から禍の気配を感じる。周りに数えきれないほどの禍が居るのか、もしくは私が禍の中に居るとか? と、そこまで思ってやっと分かった。


「あーそっか」


 あの時視界が黒く染まる直前、私の足元には何かが居た。次の瞬間その何が私の前に立ちはだかる様にして……で気が付くとここに居た。要するにあれは禍で、私は禍に飲み込まれたって訳か……。じゃあここはあの禍のお腹の中ってこと? うえぇ。

 せめて禍の姿だけでも確認できれば良かったんだけどなー。あまりにも一瞬の事すぎて何も見れなかったな。それに、今更後悔したって仕方ないけれど、目先の事に突っ走ってしまうのは直さなきゃいけないな……。まぁそんな事だから今みたいになってしまった訳だけど。


「考えばっかり巡らせていても仕方ないか。色々と試してみないと」


 とりあえずこのひしひしと感じる禍の気配以外に何かを感じるかも知れないから、私はいつも通り禍を感知してみようと、全身から日の力を放ってみた。

 だけど、周りから感じる禍の気配の所為で、何も分からなかった。まるでノイズが走っている様な感じで、ほとんど何も分からない。分かったのは、複数の禍が居るって訳じゃなくて、やっぱりここは一塊の禍の気配だってことだった。

 それと、この周りから感じる禍の気配はいつもの禍の気配とはどこか違うってこと。勿論今いる場所の空気が重苦しいからそう思ってしまうだけかも知れないけれど、なんだろう。悪い意味でもっと純度が高いと言うか、いつも感じている禍の気配が汚れた水なら、これはヘドロの様にもっと重くて、粘着質で、とにかく色々な物がドロドロに溶け合っているみたいな、そんな気持ち悪さがする。そしてとても冷たい感じがする。

 この気配を言い表すとしたら、私達の日の力とは全く真逆の感じ。

 次に私は右手に日の力をこめてから地面に札を一枚置いて、札から少し離れて右手を握りしめてみる。札からパァッ! っと強い光が一瞬放たれたかと思うと、何かが起こる事も無く、徐々に札から光が失われて行ってしまった。


「あれ? おかしいな……柱が立つはずなんだけど」


 日の力は使えてる筈なのに、何故か不発で終わったんだけど……やっぱりここが禍の中だからだろうか?


「うーん……私の日の力では歯が立たないだけなのか、そもそも日の力が通用しないのか……」

 

 ただ、じっとしていても埒が明かないし、次はこの中を歩いて色々と調べてみることにした。

 歩いても歩いても暗闇は晴れる事が無くて、壁や扉や階段見たいな物は何も無くて、平坦な地形が続いているだけだった。だからずっと同じ場所を歩いているような錯覚に捉われてしまいそうになるけど、同じ場所を歩いていない事を確認させてくれるものがある。


「これ……なんでここにあるんだろう?」


 それは、色々な()だった。

 地形自体はずっと平坦なままだけど、この場所には多分、あの禍が私を飲み込んだ時と同じように飲み込んだんじゃないかな? って思わせる物が色々と点在していて、コンクリ片や草木、自販機に、三つぐらいの塊に分かれた車の残骸とかがある。何の為にどうやって飲み込んだのか良く分からない物ばっかりだ。

 コンクリ片も車の残骸も、断面が凄く鋭利なうえにとても滑らかで、引きちぎったとか、無理やり切ったとかじゃなくて、スパッと切れているみたい。もし飲み込む際にこうなるんだとしたら、丸呑みされて良かったと思う。そもそも飲み込まれないことが一番だけどさ。

 しかも一番びっくりしたのは、時代に一貫性がないこと。つい最近飲み込んだような物から、二層式の洗濯機に、足で踏むタイプのミシンとか、見た目からして明らかにもっと古そうな物まで、その時代の幅がとても広い。その上、時代がバラバラなのにそのどれもが比較的綺麗な見た目をしている。

 この禍がそんな昔からずっと存在しているのか、もしくはこの場所? がずっと存在しているのか、多分どっちかなんだとは思う。ただ、もしそうなんだとしたら一つ気になる事があって、ここにある物はバラバラに分断されていたりはするけれど、錆とかがほぼ無くて、朽果てている物が全くなかった。

しかしそれにしても、何というか、ここは。


「墓場……みたい」


 色んな時代の流れ着いた先みたいになっていて、皆に忘れ去られてしまった時代の墓場みたいで、とても悲しい感じがする。さっき感じた悪い意味で純度の濃い禍の、とても冷たい気配と相まって墓場という言葉がより現実的になる。

 死体を見ていないからまだ落ち着いていられるけど、もしこれで死体でも現れようものなら多分途端にパニックに陥ってしまうと思う。というか現状でも凄く不安な事は不安なんだけど。

 もしこのまま助けなんて無かったら? もしこのままここで何も出来なかったら? もしそのまま死んでしまったら? そう思うと、凄く怖い。


「ダメダメ、悪い事は考えないようにしないと」


 しっかりとした意識を保っておかないと、またこの前みたいに日の力が使えなくなってしまうかもしれない。今はとにかく焦らずに、不安に陥らずに、目の前の事に対して出来る事をしないと。この先どうなるのかは想像もつかないし、早くここから脱出することを考えよう。


「だけどなぁ……何というか出れそうな気配が微塵もしないよねぇ」


 暫く歩いてみて分かったのは、とりあえず出口が無さそうだって事と、この場所に終わりはなさそうって事。そして依然として現状ここから出る為の方法や手段が全く無い事。

 そもそもとして、この場所が私の元居た現実と本当に繋がっているのかも怪しくなってきた。此処は全く違う世界で、帰る方法なんて無かったら……いや、それは考え過ぎかな。漫画や小説じゃあるまいしね。

でももしかしたら、これは私の夢の世界で、所謂一つの明晰夢? ってのを見ているとして、本当の私は 現実世界で意識を失っていたりしたらどうなんだろう? それならこの終わりが無い場所も、何となく説明がつくかも知れない。


「はぁーーー。しっかし、本当にどうしたものかなぁ。どうしたら良いか分からなさすぎるよ」


 長く歩いたせいもあってか、私は少し疲れてきたので地面に腰を下ろした。そう、腰を下ろした先は地面の筈だった。

 だけどお尻から伝わって来た感触は今まで歩いていた地面の感触とは違って、何か細かい物が蠢いている感触だった。


「え? 何何!」


 咄嗟に立とうとしてみたけど、足元の方もさっきまでの地面とは別の物になっていて、咄嗟に立ち上がることが出来なかった。よく見てみると、足元は全て大小様々な大きさの手に変わっていて、ウゾウゾと、まるでミミズが何匹もいるかの様な見た目になっていた。

 その複数の手は、私の足やお尻の方から頭の方へと、身体の上を這うようにして絡みついて来る。


「離……しないさい!」


 全身に日の力を巡らせて手を振りほどく。私の身体の上を這っていた手達は堪らずに私の身体から離れて行った。その機会に乗じて体勢を立て直そうとする。だけど、身体から手が離れただけであって、足元の手が地面に変わったわけでは無い。その上―――。


「くっ……日の力が……っ!」


 どういう訳か、日の力を使おうとしても全く力が胸の奥から湧いてこない。それどころか日の力だけでなく、筋肉にも力が入らなくて、全身がズン……と重く冷たく、暖かさを失っていく。


「何とか、逃げないと……」


 四つん這いになって、この場所から逃げようと試みてみるけれど、視界に映る限りの地面は全て手に変わっていて、進もうと置いた私の手がこの地面から生えた手に飲み込まれていく。

 弱まる日の力、暗くなっていく周りの景色。私を引きずり込む無数の手。最後の力を振り絞って必死に抵抗をしてみるけれど、ますます力が抜けて行く一方だった。

 そして、本当の闇が訪れた。

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